ラウンドの合間、このファイターはコーナーに座り、家のコンロを消し忘れたことをたった今思い出した男の表情を浮かべている。
トレーナーがカットの手当てをする横で、指示は、本人の顔からするともはや話せない言語で届いている。コーナーの休憩は60秒、本来は呼吸、水分、戦術のための時間だ。このファイターはそれを、アリーナよりずっと静かなどこかへの短い精神的な小旅行に使っているらしい。医療チームは速く動いた。本人は、脳が留守番電話に切り替わった男の落ち着きで座っていた。
60秒は高鳴る心拍を落ち着かせるのにも足りず、戦術を吸収する余裕などない。だからコーナーは短く大きな合図で話す。このファイターはその合図をほぼ受け取っていない。目覚ましはゴングが担当する。